2019年12月某日に大阪市住之江区にある「住之江抽水所」及び「なにわ大放水路」の見学に行ってきました。
10月の終わりぐらいから大阪市建設局南部方面管理事務所設備課へ電話とメールで複数回のやり取りをしまして今回の見学取材が実現しました。と言うのもこの施設は一般開放されておらず現在は見学ができません。過去にどの程度「見学会」が行われてきたのか記録を遡っても全く出てこないので秘密のベールに包まれた施設と言っても過言ではありません。
この少し前にTV局の取材もあったそうで関西ローカルですが来年2020年1月6日の朝だったか…6チャンだったか…放送されるそうです。
普段は市の職員ですら立ち入らない施設なので今回の見学前に色々と点検であったり準備であったりと裏で動いて頂いたそうで本当に『ありがとうございます。』を込めてしっかり紹介していきたいと思います。
写真枚数が多いし細かい説明も入れていくと膨大な文字数になるのである程度は端折っての説明となります。
【前編】大放水路の概要
【後編】施設内部の写真
この2部構成となります。
・水害に弱い都市だった⁉
今まで僕が書いてきた大阪市に関する記事では「水害に強い」と記載していましたが、それは“今”の話であって“過去”には2回ほど大阪市内に“湖”ができたのかな。
【南北方向(下)】
大阪市の北側にある「淀川」、南側にある「大和川」は平野部よりも高い「天井川 / てんじょうがわ」になります。コレだけを見るとちょっとヤバいよね(笑)
上の【東西方向】の中心部にある「上町台地」。北は大阪城、難波宮付近から南は住吉大社あたりまでの南北に延びる細長い台地となりますが、この上町台地と大和川の位置関係によって
阿倍野区、東住吉区、平野区の一部の地域の雨水の排水が非常に困難となり「内水氾濫」のリスクがあります。写真の下側に黒い棒がありますがソレが【なにわ大放水路】となります。
【なにわ大放水路】
幹線は「長居公園通り」の下に走っており大阪メトロ「御堂筋線」「四つ橋線」の下をくぐるため、最も深い場所で地下30m余りとなり、更に準幹線が3本接続されています。
幹線:内径6.5m~3.5m
準幹線:内径5.0m~2.2m
準幹線(総延長不明)は今後も更に延伸(※一部)されていきますが、幹線の総延長は12.2㎞の大放水路であり、主ポンプ6台による計画排水量は毎秒73㎥であり大阪市内で最大の抽水所となります。
【シールドマシン】
穴を掘りながら同時に内壁を作っていく感じなのでイメージとしては高速道路のトンネル工事と大差が無いと思います。もちろんシールドマシンは特注品です。
頂いた資料とは別に「質問状」を事前に送ったので少し紹介したいと思います。この【なにわ大放水路】は「内水氾濫」に備えた施設(地下トンネル)になります。今年2019年は関東地方で台風15号、台風19号と立て続けに大型台風が直撃し未曽有の被害がでましたが、その中でも河川の「決壊」や「氾濫」による浸水被害が大々的に報道され覚えている方も多いかと存じます。
このような河川から水が溢れ出すことを「外水氾濫」と言い、関東地方の「地下神殿」は外水氾濫を目的に建設されたものになります。この辺りはその土地の特性によって異なるみたいですね。
この歳になって改めて勉強し直すことになるとは思いもよりませんでしたが(笑)。このパンフレットは各区役所にも置いてるそうなので欲しい方は貰いに行って下さい。よく出来てますよ(笑)
縄文時代は大阪市がほぼ海の下だったわけで上町台地の形状がよくわかります。その約1600年前がどのラインかよくわかりませんが、冷静に考えたら一時代とはいえ、よく難波宮を首都にできたよね(笑)
大阪平野はもともと海抜が低い上、地下水の汲み上げによる地盤沈下が加わり一度大雨が降るとなかなか雨水が排水できず古くから懸案とされてきました。
であればポンプによって強制排水を行えば解決し、現在では大阪市の9割の地域で河川などに排除しています。大都市の地下に「人工の川」を張り巡らせたイメージでいいのかな。
大阪市の浸水対策(治水事業)の全体事業費は約1兆円を計上しており、例えば【なにわ大放水路】の幹線部分のみで約590億円かかっています。昭和59年~平成12年までの16年間を費やし完成させているので当時の物価指数から考えれば幹線部分だけでも今のレートに換算して「あべのハルカス」1棟分以上の費用になってくるでしょうね。
【平面図 断面図】
これが「住之江抽水所」の内部構造になります。最深部でGLから40mも掘っているのでマンション13階相当と考えればいかに巨大な建造物なのか?
昭和58年の降雨強度43㎜/hで浸水戸数1632戸、稼働開始後の平成14年の58㎜/hで浸水戸数は0戸となっており、令和元年の現在までにおいても以前のような大規模浸水被害は一度も発生しておりません。
【施設&設備 概要】
大阪市が想定している大雨は1時間あたり60㎜/hになります。この雨量でも浸水被害が出ない目標となっていますが、実際問題として「ゲリラ豪雨」のような短時間で局所的に大雨が降ってしまうと話が変わってくると言うか、H25年8月に梅田の一部が大雨で浸水しましたが全てを防ぐ事は不可能です。
ただし、今まで床上浸水していた地域が床下浸水にとどまるだけでも被害額が大きく変わってきます。床上浸水になるとボードや内部の断熱材が汚い水を吸うので乾燥させても黒カビが発生します。浸水した自動車が廃車になる理由も同じですが、修復するにあたり物凄くお金と時間がかかってきます。
この違いはデカいぞ?
【住吉川 排水口】
道路の下側に住吉川への排水口があるので目視で確認する事はできません。
【東方 上流側】
【西方 大阪湾側】
この景色を観て更に僕の中で疑問が大きくなりましたが、台風時以外でも爆弾低気圧が大雨をもたらす事があるので一概には言えませんが…
2018年台風21号(945hPa)
やはりコレですよね。
【大阪城公園】
近畿民は今でも強烈に記憶に残っていると思いますが、本当に凄かったですよね。二度と来ないで欲しい。
この台風は猛烈な風台風だったのでそこまで大雨が降っていませんが、何と言っても大阪湾では1961年の第二室戸台風時を越えるワースト1位の記録となる329㎝の潮位を観測しました。
しっかり抜けるのか?
全然問題がないそうです(笑)
住之江抽水所の【なにわ大放水路】はすぐ横にある「住之江下水処理場」から常時24時間体制で管理されており、大型台風の直撃が確定しているような状況になれば大阪市危機管理室に「災害対策本部」ができるのでそちらから指示が出るそうです。(※基本形)
また、主ポンプはディーゼルエンジン式を採用しているので停電時でも問題なく稼働し、6台全機をフルパワーで稼働させても24時間動くだけの燃料を常に備蓄しています。コレで無理なら『諦めろ!』というレベルですね。
この「2018年台風21号」に纏わるお話を1点しておくと、大阪市内の「水門」8基、「防潮扉」353基によって329㎝の潮位を完全にシャットアウトしています。仮にこれらが無ければ最大で1m超の浸水エリアが発生していたわけですが、国土交通省の試算で17兆円の被害を防いだと言われています。内3基の「アーチ形水門」は老朽化によって今後新設されますが、大阪市内に張り巡らされた放水路と共にこれからも大阪市内の人命と財産を守ってくれることになります。
続いて【後編】のなにわ大放水路の「内部」となります。